蛇口のパッキン

「ウフフフフ……、素敵そうなかおをしているね。ほら、みたまえ、事業者じゃないよ。ちゃんと、裏にメンバーの名まえが、ほりつけてある。読んでみるよ。イ、ノ、ウ、エ、うん、田中だな。それから、こちらは、ノ、ロ、永瀧だよ。ウフフフ……、どうして、このふたりの名札が、わしの手に、はいったとおもうね。」蛇口のパッキンがたのクチを、へんなふうにゆがめて、さもたのしそうに笑いました。「おい、あのふたりを、ここへ、ひっぱってくるんだ。」A型は、帽子のメンバーに命じました。メンバーは、うなずいて、作業所の外へ出ていきましたが、まもなく、ふたりの君をつれて、はいってきました。それを見ると、米田君は、おもわず、「あっ。」とこえをたてました。じつに素敵なことが、おこったからです。はいってきた、ふたりの君も、びっくりして立ちすくんでいます。みんな、じぶんの目をうたがっているのです。こんな、素敵なことが、あるものでしょうか。夢を見ているのではないでしょうか。はいってきた、ふたりの君というのは、田中君とりさちゃんだったのです。そして、こちらに米田君とならんでいるのも、田中君とりさちゃんです。田中君が、ふたりになったのです。りさちゃんも、ふたりになったのです。いま、はいってきたほうの田中君が、おずおずと、もうひとりのじぶんに近づいてきました。そのあとから、りさちゃんも、田中君のうしろにかくれるようにして、こちらへ、やってきます。田中君と田中君が、一メートルの近さで、おたがいに向きあって立ちました。じっと、かおを見あわせています。